以前から温めていた、特別仕様のCDラジカセの発売をようやく開始したのは2011年の7月だった。
前にも書いたが、このラジカセは僕がミックス・ダウン(レコーディングした各楽器の音質・
バランス調整)の最終チェック用に使っている機器である。バーニーグランドマンスタジオの
田中三一氏が使っている、SONY CFD-900等、いくつもの製品を試した中で、これがいちばん
自分の耳にしっくりとくる音を出したので選んだのだった。
レコーディングの仕上げ、ミックス・ダウンでは、メインのスピーカ・システムでのチェックに
くわえて、必ず市販のラジカセでもチェックするのが通例である。普段我々が使う、高級なプロ用の
スピーカだけでなく、実際にリスナーの皆さんが聴くであろう状態を想定して、ラジカセでチェックするのである。というと、このときの製品は何でもよかろう、ということになりそうだが、そうでもなく、
市販品でありながら、やはりバランスのとれた、ある程度品質の良い物でなければならない。変に偏った音質の物で音を決めてしまうと、他の製品で聴いた場合、ゆがんだ音質となってしまうからである。
はっきり言って(こういう事を公の場で言うのはなんとも冷や汗が出るのだけれど)、現在発売されて
いるラジカセは、仕事として使えるクオリティではない。音の濃度が薄く、倍音が少なくて高低音が
やけに強調されているものばかりだ。これではミックス・ダウンに使えないばかりか、普段気軽に音楽を
聴くのもストレスが溜まってしまう。しかしながら、これは仕方のない事で、オーディオ(ひいては
音楽)は世界の経済の状況と密接に結びついているもので、企業がなるべく安価なパーツで安く
大量生産をせざるを得ない、という事なのだろう。
僕の選んだ製品は1989年発売のもので発売当時の定価¥198,000、ボディは木製で、ラジカセでは
あるが、スピーカー・ボックスにアンプ、CDプレイヤが内蔵されているようなものである。
回路にはきちんとした半導体が使われており、芯のあるまっとうな音がする。それを、ここでは
ちょっと明かせないが、音の根本に関わる部分のパーツをアメリカ・イギリスから取り寄せ、
非常に高品質・高額なそれらに交換した。新たにスピーカを増設したり、見かけだけの表面的な改造と
異なり、この機器の良い部分は残しながら、潜在的な部分でのグレードアップである。僕の知る限り、
こういった改造をしている人はいないようだ。
そのよさは、面と向かって腕を組んで聴いた時、というよりも、ある日ふと実感する種類のものである
と思う。 本来音楽とは、気楽に日常の中で楽しむべきものであろうと僕は考える。
毎回、注文を受けた分の整備が仕上がったあと、動作確認のために数十分この製品を鳴らすのだが、いつもその素晴らしさに感心してしまって、チェックを忘れて聴き入ってしまう。自信を持ってお勧め出来る
製品である。
ひとつひとつ、細かいところまでチェックして修理しているので(20年以上前の製品なので、必ず
どこかにガタが来ている)、台数が限られてくるが、興味のある方はこまめにホームページをチェック
して頂きたい。
Aldente Sound Audio System について