2012年7月上旬、5枚目のオリジナル・アルバムの構想を練るため、僕は手持ちの

未発表曲のリストを整理していた。それらはQuickTime、iTunes、Protools(レコー

ディング・ソフト)のファイルで常にストックしてある。古いものは2000年代初期から、

3枚の”SINGLES”セッションのもの、”SPRING MIST” セッションのもの、”LIVING” セッションのもの、そして出来たての新曲たちである。


あれこれ聴いているうち、古い楽曲に使えそうなものが多く存在していることに気づいた

が、以前からそれらをどういった形でリリースするか、考えあぐねていた。

煙草の煙をくゆらせながら、数分が過ぎ去ったが、そこでふと思いついた。それらの楽曲

をなるべく出来上がったばかりの、オリジナルな状態で発表出来る、アコースティック・

アルバムの制作である。


これまで、オリジナル・アルバムには必ずアコースティックな曲を収録してきたが、

全編を通して生楽器のみ、くわえて同時録音の曲のアルバムというのは初めてである。

アイデアを思いついたら、僕は行動は速い。早速、ミュージシャン(山田貴己、山田潤一

郎)に声をかけ、レコーディングの日取りの約束を取り付けた。


録音は、自宅スタジオ、”スタジオ・アルデンテ”で行われた。一発録り、ということは決めていたので、あれこれ編集するのに便利なコンピュータは使わず、かわりにアナログのオープンリール・テープ・レコーダーと昔ながらのレコーディング・ミクサーを使用することにした。この組み合わせで録音するのは、2004年のシングル「街灯/ふたりで目覚めたら」以来である。


コンピュータと違い、物理的な機械の要素が強いレコーダーには気を使う部分が多いが、(誤って消したら戻せない、繰り返しとるたびにテープが劣化してゆく、プレイ・バックするたびに巻き戻さなければならない、など)それら欠点は、録音したサウンドを聴いた瞬間に吹き飛んでしまった。スピーカから流れてきたサウンドは、目の前で歌っているように”リアル”で、暖かみがあり、しかもワイド・レンジでふくよかだった。このサウンドのおかげで、我々ミュージシャンは、プレイの磨き上げに専念する事ができ、非常に充実したレコーディングとなったのだった。



リスナーの皆さんはこのCDをかけた、その最初のパーカッションのサウンドだけで、現代の通常のCDの音と全く違うことが分かるのではないかと思う。それが、きわめて簡素な、そして何のギミックも使わないストレートなこのアルバムを味わうための大きな要素となっていることは間違いない。


ぜひ、ゆったりと、生楽器の奏でる音場に身を委ねてほしい。




                               2012年8月 田中拡邦